リノベーション事業における鳥の眼、虫の眼、魚の眼

 「鳥の眼、魚の眼、虫の眼」つまり、鳥のように全体観を持つ、魚のように流れを見る、虫のように細部を見るという考え方があります。コンサル関連本に時々出てくる概念なのでご存知の方も多いかもしれません。

 新規事業をスタートする時、あるいは、何か課題があり、解決策を探る時など様々な場面で有益な思考法です。今回は、リノベーション業界における一例として、集客企画をテーマに見ていきたいと思います。視野を広げる(時には狭くする)、視座を高める(時には低くする)、異なった視点を持つことで結果として、要因の発見と、その課題にフィットした具体策を見つけるヒントになるということが伝わればと思います。

・「虫の眼」という視点(細部に目を向ける視点)

 今回は、一つの販促企画の結果を見て、「芳しくなかった」と感じられたケースを想定します。今回の結果(事象)だけ、点で見て「よかった」「悪かった」というのは単なる感想にすぎません。同じ結果でも「期待外れでした」という人もいれば、見る人によっては、「すごいですね」と受け止め方が全く異なることは往々にしてあります。いずれも主観です。そして、要因として「チラシの訴求ポイントが良くなかったのではないか」「チラシのデザインが暗いのでは」等々、これらはチラシの紙面に関する議論に終始する視点です。もちろん、チラシに限らずマーケティングに絶対はないですし、完成形というのはありえませんので常に冷徹に検証する必要がありますがそれだけでは正しい考察をしたとは言えません。あと、投下した販促費と今回の企画から案件化した見込総額、すなわち売上対宣伝広告費率(自社だけでなく業界指標との比較)で見ることは虫の眼ではありますが、定量的で客観的な良い視点と言えます。

・「魚の眼」という視点(動きや変化の中で、今後を見据えた視点)

 次に、流れや動き、近未来も意識しながら見る魚の眼です。例えば過去と現在の新聞発行部数を比較してみると、2015年には4000万部を超えていたのが2022年には3000万部を下回っています(50代、60代も定期購読者は直近5年で10ポイント、同じ5年でも期間の設定によっては20ポイントほど減少)。このペースで推移すれば、今後さらに減少することは容易に予測できます。今はなんとか成立していても、年々大きく立ちはだかる課題と受け止めて、他の媒体を模索することが不可欠であるという判断になります。

 また、自社のポジションの変化という視点もあります。立ち上げ当初は知名度がほとんどなく、その後、時を経て、実績を重ねて、今は地域一番店という場合は、ほぼ例外なく、通常時(イベント外)の反響が安定的にある、もしくは、増加傾向にあります。この場合は商圏人口が限られれば限られるほど、2日間限定企画の反響は減少傾向になりますが、年間で見ると案件数は足りている(むしろ、特命受注など質をともなった案件が増加している)という場合が大半です。2日間だけ良くて、年間で見たら足りてなければ本末転倒で本来の目的に立ち返ったり、場合によっては再定義し、かつ、長い期間(軌道)で見る必要があります。また、例えば新店舗の場合、店舗のスタイル、あり方、常設型か売却型かなど前提によっては、これまでに開設した他の既存店舗と違って、安定集客に比重を置く旗艦店という存在意義であれば、オープン販促でヒットさせるような即効性を見込むような短期的視点でなく、継続的(遅効性)で長期的な視点で見るほうが適切だという考え方になります。

 立ち上げから年商3億円を目指す段階と、5億円の壁を超える段階、あるいは10億円を見据えた取り組みなのか、自社のステージの変化によってもとらえ方が変わってきます。こうして思考を掘り下げた結果、集客起点でなく営業装置(成約率アップの武器)として、次アポに位置づけされる店舗という答えもあるでしょう。時には一気呵成に勢いで出店することも大切ですが、あらかじめ各店舗の存在意義を言語化し明確にしてから出店に踏み込むことで、業績貢献に向けた精度も上がってくるはずです。

・鳥の眼という視点(高い視座で俯瞰的にみる視点)

 3つ目として、全体観(鳥の眼)です。好不況といった世の中の経済状況ではマクロすぎるので、私なりの解釈ですが、例えば業界や地域など外部環境を見るという視点です。限界値を知ったり、逆に可能性を見出したりすることにつながることもあります。一例として、シェア理論を取り上げます。リノベーションの正しい定義や正確な数字を追求するのはキリがありませんので割愛しますが、前職当時の考え方には、10,600円を商圏人口に掛けるとリノベーション市場の概算が出るという定量的思考がありました。シンクタンクの情報なども参照する限り、市場規模に大きな変化はないのですが、商圏人口は必ずしも行政人口とイコールでない点が難しいところです。ただ、概算であっても規模感をつかみ、自社のシェアを把握することは極めて意義のある指標だとつくづく思います。

 仮に現状の商圏人口が10万人として、リノベーションの市場規模を算出しますと、ざっくり10億円超となります。もし自社のリノベーション事業の年商が3億円ならシェア30%となりダントツ一番店で、そろそろ限界値を迎えているのではないかという判断ができます。この業界には売上1000億を超える全国展開の大手も存在しますし、仮に地域の中小工務店やリフォーム会社20社が2000万級リノベーションをそれぞれ年間1棟受注することで、4億円占めることになります。したがって、拡大路線という前提で、隣接商圏が仮に20万人、現在の自社のシェアがその隣接商圏で1%であれば、インパクトある具体策として、要員という条件をクリアする必要はありますが、隣接エリアへの出店という判断が大きく浮上します。また、移住やUターンなどの可能性を探り、商圏の限界をカバーできないかエリア外にも目を向けたことで、着実に都心部からの反響を獲得できている事例もあります。団塊世代、団塊ジュニア世代など人口のボリュームゾーンに合わせて思考するというアプローチも鳥の眼と言えるでしょう。

・全体を通じて伝えたいこと(新たな気づきを得て、行動につなげる建設的な思考)

 以上、取り上げた内容がどの眼に該当するかは微妙な部分もあるかもしれませんが、ポイントとしては、このように視野を拡張したり、視座を高めたり、異なった視点を持ったりしながら、多層的、多面的に事象を見ることで、新たな気づきや課題発見につながる可能性があるということです。もし、要因をつかめないまま、いつまでも主観に依存した状態で前進することはホワイトアウト(視界が白一色となる気象状況)の中でドライブするようなもの。ホワイトアウトでなくても、猪突猛進型の社長であれば、時速100キロで走行する自動車のように、それだけ視界は狭くなっている可能性があると思ったほうが良いでしょう。当然、正しく本質的な課題に気づかず、行き詰まる可能性が高いですし、突破口になるような具体策にはたどりつけません。このような論調は「理論をこねくり回している」「言い訳がましい」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。また、目に見えるものではありませんので価値として感じられにくいかもしれませんが、現場スタッフはもちろん、社長と異なった視点や視座を持つということこそ、コンサルタントの存在価値の一つだと考えています。同じ土俵の同じ視点、同じ意見では価値がありません。

 ただし、前提として固定観念や極端な善悪の二元論などバイアスに覆われていないか常に省みることが大切です。私もすでに気をつけるべき年齢を超えてきており、自戒をこめての文章ですが、今回「なるほど」と思っていただける方が1人でも2人でもいらっしゃれば幸いです。そして、より的確な具体策につなげたり、よりインパクトのある方向性を見出したり、このような思考パターンが広がることで、荒波の中で会社にとって羅針盤となったり、大げさですが結果として業界の発展にもつながったりするのではないかと考えています。

この記事を書いた人

コダリノ