今回はリノベーション市場を取り巻く外部環境を、政治的(Politics)、経済的(Economics)、社会的(Society)、技術的(Technology)の4つの観点で見ていきます。PESTというフレームワークにより、戦略を決める上でスタートラインとして必要な外部環境を把握することが可能です。
政治とは、国策、方針、法の改正、規制緩和等を表しており、経済を見るには景気の良し悪しや景気の指数等も観点となります。社会には、人口の増減、生活面などの情勢に関わるものが入り、技術の部分では、業界に関連する技術開発やその動向を見ていきます。
業界及び周辺の外部環境を広く見ることで、リノベーション市場の現状と今後の見通しを把握できます。
・P(政治)
脱炭素という国際的な要請もあり、省エネ促進策に注力しています。また、「SDGs」の推進もリノベーションビジネスが該当する要素が多く、関連性が深いテーマです。2025年の省エネ基準義務化へと、省エネ先進国のEU諸国等に比べると、かなり緩い基準ではありますが、着実に基準が上がっています。性能をわかりやすく表示する仕組みづくりに対する動きもあり、これらはリノベーション市場へも波及すると考えられます。その他、中古流通の活性化を見込んだ策等リノベーション業界にとって追い風となると言えます。
・E(経済)
新型コロナウィルスの再拡大と年金制度の将来性が危ぶまれるなどの心配材料があり、全体的には、ウッドショックや資材高騰といった経済面の不安定要素が多い中、新築、建て替えではなく、地方回帰の流れと同時に実家を二世帯リノベーションするといったケースがさらに増えそうです。後期高齢化した団塊世代と団塊ジュニア世代というボリュームゾーンの組み合わせが、選択肢としてリノベーションを選ぶことにより、市場を牽引すると期待されます。
リノベーションは高額品であるため、コロナやインフレの影響は懸念されますが、好不況の影響を受けづらい業界であるため、ポストコロナの盛り上がりを期待し、リノベーションの市場規模は堅調に推移すると予測されます。今後の経済の不安定感を考慮しますと、賃金に依存する若年層より、年金、貯蓄で生活が成立するアクティブシニア層のほうが、不安要素が少なく、購買意欲が高いと考えられます。
・S(社会)
人口減少化は、最も影響を受けにくい業界であると言われているとは言え、リノベーションの市場規模の伸びを鈍化させる要因となる可能性はあります。一方で、超高齢化社会の到来と比例して、ヒートショック死が社会問題化しています。年間19000人以上が、ヒートショックによる死亡と見られており、交通事故による死亡者(直近3000人以下)の6倍以上です。高齢化にともなうヒートショック問題は、住宅の断熱化に意識が向く大きなきっかけの一つになると考えられます。国土交通省の統計データによると、全住宅ストックのうち1979年以前の無断熱の住宅は全体の32%存在すると記載されています(現行基準に満たない住宅が9割)。現状ではまだ潜在的な需要ではありますが、住宅の快適さに対する意識の高まりもあり、断熱市場はかなり伸びしろが大きいと言えます。
また、地方を中心とした空き家率の増加も歯止めがきかない状況にあり、前回調査時で13.6%だった空き家率は、今後、20%を越えると予測されています。空き家率の改善策と新型コロナウィルスにより加速した地方回帰は、リノベーション需要のプラス要因となると期待されます。
発生が増加傾向にある地震による住まいの強度に対する意識の高まりもリノベーション業界にとって追い風になります。旧耐震基準で建てられた住宅のうち、8割以上が評点0.7以下と言われており、新耐震基準で建てられた住宅でも、6割以上が評点0.7以下となっています(木耐協調べ)。評点0.7以下とは、震度6強で倒壊可能性ありという評点であり、やはり潜在的な需要は大きいと言えます。
大工不足、職人不足などマイナス要因もありますが、社会面は概ねプラス要因です。
・T(技術)
施工管理面をはじめデジタル化技術が高まっています(ITツール品質、クラウド環境の向上)。また、耐震意識の高まりや4号特例に対する国の見解、断熱性能向上に関する意識の高まりや国の方針(光熱費表示)等を受けて、耐震・断熱・気密の施工技術の向上が進んでいくと考えられます。熊本地震により、新耐震基準でも安心できないことが浮き彫りになりました。軟弱地盤での耐震性も重点テーマになっており、確かな施工品質の必要性が高まっています。実際に住友不動産、ミサワホーム、住友林業ホームテック等大手ハウスメーカー系を中心に続々と耐震、制震の新工法(新商品)が導入されています。
断熱においても、単に「断熱材を入れるだけ」といったレベルの施工が散見される中、断熱や気密の正しい施工や断熱材の適切な選択等、施工面でも技術力向上が進んでいくと考えられます。
中古住宅流通の活性化にともない、住宅診断や査定技術の向上も着実に進んでいくと予想されます。欧米に遅れを取る診断や査定のレベル向上により、より一層、中古住宅を購入し、リノベーションするという選択肢が増えていくと見込まれています。
以上、PESTは前回お伝えしたSWOTのマクロ要素(機会と脅威)を考察する際に役立つ思考ツールです。経営者は経済の動きに気をとられ、施工系の人は技術の動きに偏りがちですので、ぜひ、幅広く中長期的な動き、変化をとらえながら今後の戦略にヒントにしていただきたいと思います。